2010年11月15日月曜日

ロング・グッドバイ  by レイモンド・チャンドラー



フィリップ・マーロウのことが知りたくて、"The big sleep"(原文), 『さよなら、愛しい人』(村上春樹訳)(Fairwell, my lovely"(原文))に続いてこの作品を読んでみた。

今英語の"English through cinema" のクラスで The big sleep をやっているので、授業の発言に厚みを持たせたくて自分なりのアプローチをしている。
原文はとても良く書かれていて、以前にも書いたがその文章の巧みさ、チャンドラーの観察眼の鋭さに魅せられているが、この作品は村上さんの訳で読んでいる。

村上さんは、ロング・グッドバイとフィッツジェラルドの『グレード・ギャツビー』を対比して後書きされていたが、その指摘を目にする前の時点で、確かにギャツビーと重なるなあ~と思いながら読んでいた。
後書きを読んで、やっぱり!と思った次第だ。

内田樹さんが、そこに更に村上春樹の『羊をめぐる冒険』を加えて3作品の共通性を述べていたけれど、確かにロング・グッドバイと羊もある意味、繋がるかもしれない。

この作品がマーロウをつかむ上では3作品の中で一番個性が出ている気がした。
というか、前2作品よりも、マーロウが人間的で深みを増し、しかももっと良い人に感じるのは私だけだろうか?
クールでハードボイルドなマーロウだけではなく、人間として男として成熟したマーロウだ。人間の深みに入って行くのはたまらない。

ところで、私はフィリップ・マーロウの彼をめぐる登場人物との距離感が好きだ。
主役から端役まで作品に出てくる全ての登場人物との距離感である。
心がどうであれ(とても近くても)、決して近くなり過ぎない、この絶妙な距離感。命がけで助けても、そこに存在している距離感。 

自分と自分以外の人間との境界線が、彼と彼が出会う全ての人々との間に存在している。私はその彼の意識的なアイデンティティを含んだ距離感と、彼の無意識に人間的な心の中での距離感とを比べながら作品に読み入った。

そして、そのマーロウは今授業でやっている、the beg sleep のボギーが演じているマーロウとはちょっと違うイメージを描いている。
【補足】
この作品を読んでいて一番感心したのは、女性の描き方の上手さだった。
圧巻だったのは、マーロウがニューヨークの出版社のハワード・スペンサーという男と会うためにホテルか何かのバーに行った時のことだ。そこに一人の女性が現れた。
彼女の美しさを現す空気感の素晴らしさ、『一瞬、まわりの物音がすっかり消えてしまった。』とある、そしてどのように物音が消えたか描写しているのだが、今でも鼓膜を揺すぶったインパクトが残っている。
そして気品のある、非の打ち所のない美しい女性、アイリーン・ウェイドの登場になるのだが、その時にはまだ彼女の役割は分からない。
3作品の中でこの女性の登場シーンの描写が一番美しい。
もっとも別の意味で、『さよなら、愛しい人』に描かれる女性達もロートレックの絵に描かれている女達のようなしたたかな逞しさで魅力に満ち溢れていたが・・・。
男性から見た女性の美が興味深い。

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