2015年1月6日火曜日

アルケミスト 夢を旅した少年 〜パウロ・コエーリョ

『アルケミスト』 (原題 O Alquimista (Paulo Coelho) )



Kzさんに薦められて読んだ作品。
作者はブラジル人だが、舞台はアンダルシアとエジプトだ。
久しぶりに純朴で気持ちのよい作品だ。




ここのところ、目が悪くなって手術をしたため本が読めなかったので、この文庫本も目からどの距離に本を持って来たら一番読みやすいのだろう?どこでも見えない・・・
と大変苦労して読んだ。
自分の人生・・本好きな私がこんなことで苦労することになるとは思ってもみなかった。

先日慌てて老眼鏡を作り替えたが、メガネ屋さんがあまりの極端な左右の視力差とあまりにも良かった視力がすっかり衰えて、心底びっくりしていた。

ここまで書いて年末の忙しさで中断、新年を迎えてやっと時間ができ続きを書いておく。

この作品で一番興味深かった場面を自分の為に書いておこうと思う:

羊飼いの少年サンチャゴが、人生の分岐点で出逢った老人(実はセイラムの王様)メルキゼデックから聞いた話で、最後までこの教えが繰り返して貫かれている内容だ。

ある店の主人が息子に、「世界で最も賢い男から幸福の秘密を盗んできなさい」と言って旅に出させた。

やっと賢者の宮殿に到着した少年は賢者から「今時間がないから、家の中をあちこち見て回って2時間したら戻っておいで」と言われる。ただし、油が2滴入っている小さなスプーンを渡すから、この中の油をこぼさないようにするんだよ」と付け加えた。

少年は宮殿の中を歩き回ってはみたものの、油をこぼさないようにということばかり気になって周りを大して見ずに戻ってくる。
賢者は、「これも、あれも見てないのかい?」と家の中にある珍しい物をみんな見落として来た少年に、「その人の家を見ないでその人を信用したら駄目だよ、もう一度見直しておいで」と言った。

今度はあまりの珍しさに気を取られて見ることに夢中になった少年は、戻って来た時には手に持っていた油はみんなこぼれてしまっていた。

そして賢者は「幸福の秘密とは、世界の素晴らしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ」と言うのだった。

この逸話はよくある話ではあるけれど、本当に的を得ている戒めだと思う。人生の中で何度も突き当たるこの問題はスプーンの油を忘れることにある。いい気持ちの中で100%無防備で浸かり過ぎてはいけないのだ。
うまく行くと人は奢る、うっかり油断する。何か制御するものがないと必ずどこかで躓くことになる。

丁度、揺れる船の上で転ばないようにバランスを取る芯棒や舵取りのようなものだ。
人間関係も、健康面も、金運も業績も名声も旅行だってそうだ。
油の入ったスプーンは、謙虚さであり、反省であり、思いやりや良心であり、ぶれないための芯棒なのだ。

尤も、失敗を恐れて臆病になり、何もしない何もできないでは問題外だが・・・。

この作品の読み方は人によって随分異なると思うけれど、羊飼いの少年サンチャゴの歩んで行くルートにはそれぞれに面白いこと見落としてはいけないことがたくさん詰まっている。前兆を見落とさないこと、それを感じるセンサーを持ち続けること・・・やはりラテン系の文学の素晴らしさがたっぷりの作品だ。

舞台になっているアンダルシアとエジプトの空気が興味深い。
原書はポルトガル語だから無理だが、スペイン語訳で読んでみたら又何か雰囲気が違って、面白いかもしれない。


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