2013年8月26日月曜日

『エトルリアの微笑み』 〜 "La Sonrisa Etrusca" by José Luis Sampedro

スペイン語の友人Kさんはいつもとても素敵な本を紹介してくれる。

『黄色い雨』も素晴らしかった。今回も最後は涙が止まらなくて困った。でも、この涙は温かい涙、哀しみや苦しみから解放された、とても温かい気持ちの良い涙だった。






『エトルリアの微笑み』 
原題は "La Sonrisa Etrusca" 
作者は José Luis Sampedro というスペインの経済学者だ。今調べたらこの4月8日にマドリッドで96歳で亡くなったばかりだった。








記念に写真を残しておこう。この先生から講義を受けたら楽しそうだ。







経済学者でありながら作家でもある彼のこの作品は、読み終えると涙以外に発する言葉がないくらい素晴らしかった。
ただ残念なことに、私はまだイタリアに行ったことがない。





田舎育ちの頑固老人ブルーノは、癌で余命少なしと宣告されている。
きちんとした診察を受ける為にミラノの息子夫婦の家に行く途中で立ち寄ったローマの博物館で、息子のレナートを待っている間、エトルリアの遺物『夫婦の棺』という納骨室の作品の前で釘付けになる。 


棺の上で夫婦が寄り添って幸せそうに微笑んでいるのだ。死を迎える二人の顔には知的で謎めいて、穏やかだが官能的な同じ微笑み。


美術や歴史的なことはよく分からないので、それらに詳しければ、もっともっと楽しめる作品だろう。

その後レナートと一緒にミラノの家に行くのだが、知的な都会育ちの嫁のアンドレアとは反りが合わないし、ミラノという町には馴染めないし・・・けれどそこには新しい生命の宝物、13ヶ月の孫、ブルネッティーノがいた!

ブルーノはもっとおじいさんなのかと思ったら、67歳。
その孫の存在がこの頑固者の老人を少しずつ変えて行く、、、筋の通った、『孫を自分の血を受け継ぐものとして一人前の男にしなければ』という思いが彼自身の人生にも素敵なことを生み出して行く。

全て、孫をまっとうな男にするため。都会のもやしに育てられたのでは不安でならない。だから、『この女性ならば間違いなく孫を良い方向へ導いてくれる』と見込んだ女性オルテンシアと結婚して素敵なおばあちゃんまで"孫の為に"用意する(もちろん自分もぞっこんだ)。
そんなブルーノは粗雑だけれど細やかな思いやりがあり、スケールが大きくてとても魅力的な男らしい男性だ。

最後にもう一つ、ミケランジェロの作品が出て来る。




ミラノの『ロンダニーニのピエタ』、最初の棺の作品に対してこの作品で締めくくられている。








残されることになるであろうブルーノの再婚相手、オルテンシアへの、人生をともに戦う戦士としての彼の想いが込められている。
瀕死の状態でも二人で支え合って、愛に満ちて・・・相手は抱いているはずなのに、後ろから見るともう一人が背負っているようにも見える、本当の相棒・・・

とにかく、最後のブルネッティーノの『ノンノ!』(イタリア語で"おじいさん"の意)という声を聞くだけで十分である。
それが聞きたくて、聞きたくて・・・そして、聞けた♡♡

まだ修行が足りないが、私も静かに微笑んで死にたいものだ。


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